こんにちは。今回の公演「額田大志×山下恵実 FURUMAiiiiiiiiiiiiiii」の記録を担当している今井夕華と申します。
普段は編集者をしながら、工場や企業の裏側「バックヤード」を観察する「バックヤードウォッチャー」としても活動しています。もともと多摩美術大学に通っていたのですが、文化祭のパフォーマンス音楽をつくってくれたことがきっかけで、演出家の額田さんと仲良くなり、今回の座組みに呼んでもらいました。
この記事では、公演の制作・プロデューサーチームのインタビューをお届けいたします。普段はなかなか見えない裏方の仕事。公演を支えているのは、一体どんな人たちなのでしょうか?
谷 竜一 (写真左)
1984年生まれ。京都芸術センタープログラムディレクター。山口大学教育学部卒、東京藝術大学音楽研究科音楽文化学専攻芸術環境創造研究分野(修士)修了。京都芸術センター アートコーディネーター、京都府地域アートマネージャー(山城地域担当)を経て、2021年7月より現職。演劇・ダンスを中心に、現代美術、伝統芸能等多岐にわたる事業企画・運営を担当。また、詩人・演劇作家・舞台芸術ユニット「集団:歩行訓練」代表としても活動している。
平居 香子 (写真中央)
1995年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科表象文化論コース修士課程卒業。2022年より、同博士課程に在籍しつつ、京都芸術センターにアートコーディネーターとして勤務。研究は1960年代から80年代にかけての日本のダンス(の予定)。ここ数年、高度経済成長期の大衆作家・源氏鶏太に興味しんしん。
池田 佳穂 (写真右)
1992年生まれ。キュレーター、リサーチャー。東南アジアを中心に、土着文化や社会情勢から発展したコレクティブとDIYカルチャーの調査を独自に行う。各地で展覧会、ワークショップ、オープンラボ等を現地コレクティブと共同で開催。近年では台湾作家テオム・チェンの個展「ナガヤ・フィジックス」(2021)の企画するほか、展覧会だけでなくパフォーミングアーツや教育プログラムが複合した領域横断的なキュレーションに関心をもつ。
祇園祭りで盛り上がる、ある暑い日曜日。京都芸術センターに「額田大志×山下恵実 FURUMAiiiiiiiiiiiiiii」の制作・プロデューサーチームが集合しました。メンバーは、京都芸術センターで「プログラムディレクター」をしている谷 竜一さん、同じく京都芸術センターで「アートコーディネーター」をしている平居 香子さん、この公演の「制作」を担当している池田 佳穂さんです。
おっと、カタカナがいっぱい出てきたぞ!と身構えたあなた。私も同じレベルなのでご安心ください(笑)。この記事では、裏方の人たちが一体何をしているのか、どんな人生を歩んできた人なのか、舞台に詳しくない方でも分かりやすいよう書いていきたいと思います!
まずはお一人ずつ、人生の話を聞いていきます。
「上手そう」にエレクトーンを弾く子ども
ー簡単に自己紹介をお願いします。
谷:京都芸術センターで「プログラムディレクター」をしている谷 竜一です。普段は芸術センターで働きながら、詩を書いたり、演劇をやったりもしています。
ーご自身でも活動されているんですね。谷さんは、どんな子ども時代を過ごしていましたか?
谷:福井県の田舎で生まれて、小中学校全体で合わせても50人くらいしかいない、小さな学校に通っていました。エレクトーンを習っていたのですが、練習というものに全くモチベーションが湧かないタイプで(笑)。実際には上手くないのですが「谷くんはすごく『上手そう』に弾くね」って言われていました。
ー当時から演じるのが上手だったのかもしれませんね。その後はどんな学生時代でしたか?
谷:高校時代は吹奏楽部で3年間サックスを吹いていました。詩の投稿サイトにハマったのも高校時代ですね。自分で詩をつくって投稿したり、予備校に通うということを言い訳にしつつ都会に出て、詩のイベントに行ったり。演劇は、大学時代には演劇サークルに入ってやるようになりました。
ー田舎で育ったということですが、文化的なものには多く触れていたんですね。
谷:そうですね。小さいときから習い事に通わせてもらったり、確か8歳くらいのときにはオカリナ奏者のコンサートに連れて行ってもらったり。両親が「都会の子に負けないくらい色々な経験をさせたい」「『田舎だからできないことがあった』って思わせたくない」という教育方針だったようです。
絶対に音楽を止めてはいけない宴
続いては、谷さんの後輩であり京都芸術センターの「アートコーディネーター」平居 香子さんにお話を伺います。
ー自己紹介をお願いします。
平居:4月から京都芸術センターで働きはじめた平居 香子です。ここに来るまでは大学の修士課程で日本のダンスを研究していて、今も博士課程に在籍しながら研究を続けています。
ー平居さんはどんな幼少期でしたか?
平居:保育園の年長さんのとき、すごく文字が書ける子どもだったんですよね。それでなりすましの手紙を書いて先生に怒られた記憶があります(笑)。中高時代はずっと剣道をやっていて、大学に進んでからは「ベネズエラ音楽」のサークルに入りました。
ーベネズエラ音楽とは!珍しいサークルですね。
平居:照明や演出、宴会の係をやっていました。ベネズエラでは「パランダ」といって、音楽を演奏しながらお酒を飲む、歌試合のような文化があるんです。宴の間は、絶対に音楽を止めてはいけないというルールなので、段取りをきちんと考えないといけなくて。お店の貸切予約をするとか、お酒が無くなった人のところにサッと持っていくとか、そういうことをやっていました。
ー大学院ではダンスの研究をされているということでしたが、ハマったきっかけはなんだったのでしょうか?
平居:フランスに留学に行ったとき、チケット代が安くて、毎日のように舞台を観に行ってたんです。日本でも観てはいたんですが、フランスで「すごい!楽しい!」となって今に至りますね。
架空の人物になりきる
池田さんにも人生の話を聞いてみます。
ー自己紹介をお願いします。
池田:今回の公演の制作を担当している池田です。普段は東京にある私立美術館で学芸員をしています。
ー池田さんはどんな人生を経て、今のお仕事に就いたんですか?
池田:中学時代は荒れ果てたギャルでしたね(笑)。その後は親の仕事の都合で、高校時代から一人暮らしをしていました。大学に行くつもりはありませんでしたが、高校3年生の12月に「やっぱり大学に行きたい」と思って。唯一受験した大学に進学したという流れです。
ー池田さんが昔ギャルだったとは。みなさん面白い経歴をお持ちですね。
池田:今思えば、ギャル文化を120%体現してみたいという考えだったんですよね。服装とか、ふるまい、言動すべての印象をガラッと変えられるというのが面白いなあと。会社員になってからは「OL」という属性に興味を持って、相席屋で「秋田リカ」という偽名を名乗り、キラキラしたOLになりきっていました(笑)。
ーもはや演劇ですね!
池田:そうなんです。そのときに「これは即興演劇だな」って思いました。相手も誇張したプロフィールで来ているかもしれないし、相手が「秋田リカ」に対して質問をすることで「秋田リカ」のプロフィールがどんどん更新されていくんですよね。そんな趣味を続けていたら、友達に「演劇とか観に行った方がいいよ」っていわれて。「劇団ナカゴー」や、「五反田団」といった演劇に出会い、どんどんハマっていきました。
ー会社員時代はどんなお仕事をされていたんですか?
池田:広告代理店で働いていました。でもアートの仕事をしたいと思って、親に内緒で脱サラして(笑)しばらく就職活動をしていたんですが、どこにも受からないという暗黒時代を経て、アートセンターに就職しました。暗黒時代には交通量を測るバイトなどをやっていましたね。アートセンター時代は、作家さんのパフォーマンスや展覧会を担当しながら、高円寺の居酒屋で日替わり店長をやったり、東南アジアのリサーチを開始したり。忙しく過ごしていました。この公演の演出を担当している額田さんとは、現在働いている美術館の教育普及事業で出会って仲良くなり、今回はじめて制作を担当することになったという経緯です。
公演を支える仕事
ここまで、それぞれの生い立ちや、今のお仕事に就くまでの経緯を聞いてきました。ここからは、今回の公演でどんなことを担当しているのか、聞いてみたいと思います。
ー谷さんは京都芸術センターの「プログラムディレクター」。平居さんは「アートコーディネーター」ということですが、実際にはどんなお仕事を担当しているんですか?
谷:京都芸術センターでは、「アートコーディネーター」は企画・運営担当。「プログラムディレクター」はそれら全体を統括したり、支えたりする担当という感じです。特に平居さんは、まだ入って間もないので、僕が「こういう交渉をしているんだよ」とか「こういう企画の詰め方をするんだな」とか、親鳥と雛鳥のようにやってみせています。本番が近づくにつれて指導が雑になってきているんですけどね(笑)
ー親鳥と雛鳥ということでしたが、平居さんはお話を聞いていていかがですか?
平居:谷さんの進め方は、勘や経験が違うので、私には真似できないかも(笑)。
谷:音響さんとの打ち合わせ一つとっても、人によって出来ること、出来ないことがあるし、その人それぞれのキャラクターもある。基本的な公演の進め方はあるものの、スタッフやアーティストがそれまでいた業界やキャリアによってもかなり変わってくるので、アーティストや他のスタッフから学びつつ、自分なりのやり方を構築していってもらえればいいんじゃないかな。
ー池田さんは「制作」を担当されています。実際にはどんなことをやっているのでしょうか?
池田:私はホームページをつくったり、SNSを更新したり、メールのやりとりをしたり。制作の仕事がはじめてなので、「私に何が出来るかな」と考えながら、公演をするために必要なこまごまとした作業を担当しています。
ー普段は東京の美術館で働いている池田さん。今回は美術館の仕事がお休みの日を使って京都に来ているんですよね。
池田:そうなんです。稽古は京都で行われているのですが、私は東京で働きながら携わっているので、主に遠隔で作業をしています。普段は年上の美術作家さんと関わることが多いのですが、今回はみなさん世代も近く、自分のスケール感にあったことができるので、とても楽しいですね。
ーもうすぐ公演本番ですが、どんな方に観てもらいたいですか?
池田:この公演は、演出家とパフォーマーが実際に京都に滞在しながら、地域の人たちとつくっているので、そのプロセスを面白いと感じていただける方に是非来てもらいたいですね。
谷:僕は近所の方に、フラッと観に来てもらいたいです。漏れた音が気になった人、つい覗いて観てしまう人、そういうカジュアルなノリの人たちをなるべく受け入れたいなと思っています。施設の中と外の空気が、ゆるく行き来するような、そんなパフォーマンスになると嬉しいです。
平居:普段の展示と少し趣向を変えて、今回は銭湯や書店に多くチラシを配っているんです。アートやパフォーマンスを普段見ていない人にも、ぜひお気軽に見に来ていただきたいです!
執筆者プロフィール

今井夕華
Yuka IMAI
フリーランスの編集者/バックヤードウォッチャー。1993年群馬県生まれ。多摩美術大学卒業。小学校の頃から社会科見学が好きで、大学の卒業制作では多数の染織工場を取材。求人サイト「日本仕事百貨」を経て2020年フリーランスに。人間味あふれるバックヤードと、何かが大好きでたまらない人が大好きです。
額田大志×山下恵実『FURUMAiiiiiiiiiiiiiii』
2022年8月6日(土)、8月7日(日)
各日13:00/17:00
音楽・演出:額田大志
振付・演出:山下恵実
出演:根本和歌菜、渡健人、額田大志、山下恵実、ふるまい部の部員たち
会場
京都芸術センター館内各所
※当日誘導有り
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